砥川流域における総合的な治水・利水対策について

平成15年11月

砥川流域協議会

 平成13年2月20日に発表された田中知事の「脱ダム宣言」によりダム中止が打ち出された。その後約2年間にわたる長野県治水・利水ダム等検討委員会や砥川部会の議論により、下諏訪ダム中止の方向づけがされた。その結果長野県はダムの代替案として、いわゆる枠組み案を発表した。これは現在実施されている基本高水流量の再検証の結果が出るまでの間、現行の280トン/秒を当面の治水対策の目標とし、河川改修でその8割の220トン/秒を、流域対策で残りの2割の60トン/秒を処理しようというものである。この枠組み案に基づき長野県が作成した河川改修原案などに対し、長野県治水・利水対策推進本部は住民と行政がともにこれからの治水と利水を審議、検討し実現することを目的とした砥川流域協議会を設置した。

 流域協議会では一部会員に枠組み案の実現性への疑問や基本高水そのものが過大であるといった意見があったが、「流れを後戻りさせてはならない、不毛の議論からは何も生まれてこない、河川改修を早急かつ優先的に実施して欲しい。」等、前向きな議論を切望する多数の意見により、長野県の提案した枠組み案を前提としながら平成15年6月28日から現地調査を含め、11回の慎重かつ活発な議論を行ってきた。

 流域協議会は長野県の提案した河川改修原案および後に追加提案された流域対策原案について審議、検討を重ねた結果を以下のように提言する。

T 河川改修原案

 河川改修原案については計画高水流量の220及び230トン/秒を前提に、引堤、河床掘削、ワカサギ、護岸構造、橋梁架替、その他の6項目に分類し、長野県の提案する原案の具体化について、可能な限り検討してきた。

1.引堤について

 河川改修原案では2箇所で引堤が計画されている。

1)河口部引堤について

 河川改修原案によると河口部の引堤区間は、現況堤防高の低い右岸側を約400mである。

 引堤区間には、ワカサギの採卵施設などがあるが、既存の家屋へは直接影響しないことを第3回の現地検討会も含め確認した。また、ワカサギの採卵などを営む諏訪湖漁業共同組合関係者からも、治水上の安全確保を優先したい旨、流域協議会で発言があった。

 一方、引堤の代替案として、河床掘削、堤防嵩上げ、遊水地が会員から提案された。このうち、遊水地については憩いの場とも言える親水公園を兼ねられるのではないかと言う意見もあり、敷地など制約はあるが、検討していくべきではないかという意見があった。

 河口部引堤については、治水上の安全と併せて可能な限り高水敷利用など親水空間の創造を検討しながら実施すること。

2)福沢川合流部から上流の引堤について

 福沢川合流点から上流の引堤区間は、「家屋等の買収が極力少なくなるよう計画する」県の基本方針に沿い、右岸約350mにわたり引堤するものである。引堤により家屋へ直接影響しないことは第3回現地検討会も含め確認したが、沿川関係者の中には宅地出入口や庭先などへ影響することを懸念する意見もあり、引堤による民地への影響を最小限にするための検討を重ねた。

【検討事項】

 計画高水流量を確保することを前提に、引堤に拠らない工法として堤防嵩上げ、護岸法勾配の変更、また引堤による影響を最小限にするため、堤防構造や付替水路の工夫について検討した。その結果、

@堤防嵩上げした場合 (第5回資料)

 右岸側堤内地への影響は、引堤と大差がないことや、計画高水流量を確保するためには左岸側の嵩上げが必要となり、河川管理施設等構造令で規定される堤防天端幅を確保すると、左岸側へも影響することが懸念されることとなった。

A護岸法勾配を変更した場合 (第6回資料)

 護岸法勾配を1:0.5とした場合、民地への影響はなくなるが、川へアプローチし難く親水性に劣ることが懸念される。したがって護岸法勾配は、原案にある1:1.0とすることが好ましいのではないかという意見が多数あった。

B堤防構造を工夫した場合 (第7回資料)

 堤防構造を工夫した場合として、2案比較検討した。1案は堤防天端を必要最小幅とした場合であり、もう1案は堤防裏法構造を工夫した場合である。ともに効果が期待できる。

C付替水路を工夫した場合 (第7回資料)

 河川改修原案では河床掘削により、現況河床を掘り下げるため、堰取水口の付け替えが必要になる。そのため、現況より上流から取水・導水しなければならず、堤外水路として付け替えるというのが原案の内容である。それにより、川幅が堤外水路幅分広くなっている。この水路の付替位置を工夫した場合として、2案比較検討しているが、ともに現況堤防が低いところで堤防嵩上げを必要とする可能性もあり、その影響が新たに懸念される。

 福沢川合流点から上流の引堤区間については、護岸法勾配を1:1.0とし堤防構造を工夫することで、民地への影響を最小限にできることを確認した。詳細設計時においては地権者の同意を得る努力を行い、止むをえない場合は護岸法勾配の再検討も柔軟的に行うこと。

 

2.河床掘削について

 河川改修原案は、河口から医王渡橋までの計画区間全川で河床掘削が計画されている。この河床掘削は最深掘削深で、現況の最深河床から約1.2m、浅いところでは現況とほぼ変わらないが、両岸の寄洲では河積確保のための掘削が必要になっている。

 砥川は岩盤の脆弱な上流域からの流出土砂が、下流域の扇状地地形で堆積したものであり、この流出土砂は砥川の宿命とも言うべき部分である。 そのため、堆砂については維持管理の浚渫により、すぐにでも対応して欲しいという意見が多く、特に天井川区間では安全性を確保するため河床掘削を進めて欲しいという意見があった。

@河床掘削による地下水へ影響を懸念するので、事前に地下水を調査し、必要な場合は対策を講ずること。また、沿川住民に対しても十分な情報提供をすること。

A工事、特に河床掘削は生態系に大きく影響することが懸念される。河口部から医王渡橋間では、ワカサギ、ウグイ、アマゴや ヨシノボリといった魚類、カゲロウやトビケラ類などの水生昆虫、コサギ、キセキレイ、カワガラス、オオヨシキリなどの鳥類など、一部を挙げたに過ぎないが、砥川には豊かな生態系が存在する。改修にあたっては、事前に生態系について調査し、保存すべき種やその方法について、学識経験者からも意見聴取のうえ、住民に対して十分な情報提供をすること。(環境アセスメントとその公開)

B堆砂は砥川の宿命であり、河川改修後も河積確保など適正な維持管理を行うことが必要である。したがって堆砂については、砥川の特性を考慮した管理基準を設け、継続的な浚渫を実施すること。

 

3.ワカサギについて

 河川改修原案では、河床掘削による河床変動や引堤により、ワカサギ遡上時の水位や流速に影響することが懸念される。また、工事中の濁水はワカサギ遡上そのものに大きな影響を与えると予想される。

 今回、漁業関係者として参加している諏訪湖漁業組合からワカサギの生態系や漁獲高などの説明を受けた。会員からワカサギ漁は諏訪湖特有の風物詩でもあり、後世に残していくべきという意見等が出された。(第7回資料)

@ワカサギの遡上には流速、流量、及び水位が重要であり、遡上時に維持流量だけは確保できるように配慮すること。

A横断根梁の設置を検討すること。

B工事期間中の濁水がワカサギ遡上に影響するので、工事期間や施工方法などを関係者と十分協議すること。

 

4.護岸構造について

 河川改修原案では、全区間にわたり自然石練積工が計画されている。この計画に対しては全区間コンクリートを使ってやるべきではなく、必要なところだけ施工し現況護岸を出来るだけ残すべきだという意見と安全面から全区間を改修すべきという意見に分かれた。

 流域協議会は会員から出された多種多様な意見を、可能な限り集約するために河川改修ワーキンググループを設け「河川改修協議会案」を作成した。

 その結果、計画区間全川を画一的な断面形状にすることは極力避け、河川特性や生態系、治水上の必要性などを考慮した工法を選定していくべきであるとの基本方針に立ち、以下のとおり全川を4つのゾーンに区分し、それぞれのテーマを目指した河川整備を提案する。今後、河川改修を実行するにあたりこの「河川改修協議会案」をたたき台とすることを要望する。(別添資料参照)

@河口から鷹野橋間

 この区間はワカサギを保全し、観察できるゾーンとする。右岸を親水公園とし観光客や次世代にも諏訪湖のよき風物詩を伝承できるようなゾーンを目指す。

A鷹野橋からJR橋間 

 この区間は公共施設や住宅が密集している。現在は天井川であり、計画区間の中では洪水高水時にもっとも危険な区間であると考えられるゾーンである。したがって、既設堤防の補強を含め治水上の安全確保を第一に図るべきゾーンとする。

BJR橋から福沢川合流点間

 この区間もまた住宅や工場が密集しているゾーン。現況流下能力は区間中最大であり大掛かりな工事をしなくてもよいため、現況の河川形状が利用できる区間である。また天端には桜が植えてあり自然と触れ合うことのできる場所である。地域の財産である砥川の清流とふれあえる場を目指す。

C福沢川合流点から浮島上流間

 この上流には諏訪大社、浮島、万治の石仏などがあり、景観にも十分配慮が必要であると考える。よって、神々とのふれあい・瀬音の響くゾーンを目指す。

 長野県は護岸工事実施にあたり安全と環境保全に考慮した工法を選定し、河川整備を進めること。その際、河川アドバイザーなどの意見を聞き計画に反映させることも必要である。

5.橋梁架替について

 河川改修原案では、鷹野橋及び富士見橋の架け替えが計画されている。この2橋の架橋年次は、鷹野橋が昭和12年、富士見橋が昭和44年である。2橋とも河道内に橋脚を有するため、その橋脚が治水上支障になるという指摘が多数あった。

 河川改修原案では、河床掘削により適正な橋台及び橋脚の根入れが確保できないという理由から、2橋とも架け替えるというもので、流域協議会は総意で賛成する。但し、今回の河川改修原案では、橋梁架替について細部にわたる設計が出来ていない。橋梁架替時には、現況交通の確保による仮橋設置などが予想され、当初予定にない地域で、新たに家屋等へ影響することが考えられる。

 橋梁架替については、計画策定を含め早期に具体化に向けて取り組むこと。但し、計画策定時には関係する住民に十分な情報提供を行い理解を得ること。

 

6.その他

 全区間を改修するというのではなく、財政面を考えると必要なところは補強し、残せるところは現況を維持するようなスタンスも必要という意見があった。

 砥川は共有の財産であり、その維持管理は住民も率先して取り組むべきであるという意見があった。

 正確な流量データーの取得にあたり、獲得流量観測地点に水位の変化を常時連続的に記録保存するために観測カメラを設置したらどうかという意見があった。

 

U 流域対策原案

 流域対策原案は、「森林整備」「土地利用規制」「遊水地設置」からなる。実際に基本高水280トン/秒の残り2割、60トン/秒のピークカットするのは、4箇所の河道内遊水地と3箇所の河道外遊水地で対応したいという長野県の説明に対し、以下のような様々な意見が出された。(第9回・第10回流域協議会)

・緑のダムかと思ったが今回の案では自然がなくなってしまう。自然を大事にしたい。

・針広混交林にして欲しい。

・河道内遊水地とはどういったものか。

・河道外遊水地の候補地「シシバイ岩」の賛否両論。

・大きなダムと遊水地(小さなダム)はどちらが自然に優しいか。

・新しい物を造るのではなく、今あるものを活用して欲しい。例えば砂防堰堤など。

・砥川は地質が悪く活断層も心配されるので十分に注意して欲しい。

・河道内遊水地は堆砂や流木等が詰まる可能性が懸念されるので十分な検討を行うべきである。

・各対策の実施によって、砥川と東俣川からのピーク流量の時間帯が合わないように検討をして欲しい。

・治山事業で土石流の発生源対策を行って欲しい。

河道内遊水地を1箇所先行して造り効果の検証してみてはどうか。

・浮島から上流部における土砂流出防止対策を河川改修と並行して実施すべきである。

・流域対策原案は脱ダムの理念に整合しない。

・土砂流出の原因のひとつである沢筋の浸食を防ぎ、山腹の崩壊を防ぐため床固め工等の対策をして欲しい。

第10回流域協議会で長野県から、具体的なスケジュールが以下のとおり明示された。

1)事業期間は来年度から30年間以内とする。

2)平成16年度に調査費を計上する。

3)実施にあたっては流域協議会に諮るとともに、理解と協力が得られた箇所を優先的に実施していく。

 流域協議会は、遊水地の設置場所およびその実現性や効果について、可能な範囲で議論を行った。その結果、現段階の流域対策案は原案であるため不十分な箇所も多々あるが、前述のとおりその実施の姿勢も明確になったため、この流域対策原案は否定しないこととした。今後、個々の遊水地のより具体的な位置や規模などの立案実施にあたり現地視察や意見交換をしながら実現に向け協力、支援をしていきたいと考える。

 遊水地などの構造物を検討する一方で重要な事は流域対策として示された他のメニューも平行して進めることである。特に森林整備は正しく進めることにより、「水源涵養機能」「土砂流出防止機能」などが期待でき、治水上ばかりでなく、次世代にこの緑豊かな自然を受け継いでいくためにも、重要な施策である。

 

V 利水対策

 利水対策については、『砥川に関する治水・利水の枠組み』の中で、「水源対策は水道事業者たる市町村の責任において、短期、中長期の施策に分け、速やかに行うべき施策と将来に向けての施策を適宜組み合わせ、確実に実行することが重要である」とし、現段階では具体的な代替案は示されていない。しかし、長野県治水・利水ダム等検討委員会の答申にもあるように、岡谷市の地下水汚染はほぼ市街地広範に広がっていることは認識しなければならない。

1.下諏訪町について

 下諏訪町については、下諏訪ダムからの1,000トン/日の利水を計画していたが、平成23年までは不要となる見通しであるとしている。したがって、現時点では、流域協議会は下諏訪町の利水計画については、説明を聞き置くことにする。

2.岡谷市について

 岡谷市については、現在の水源(特に地下水源)が枯渇傾向にあること、高度浄水処理を行っているため、少しでも安全な水を市民に供給していきたい意向があることなどから、10,000トン/日の利水が必要であるとしている。

 しかし、第9回県提出資料や会員の意見からは、下諏訪ダムから予定していた10,000トン/日の利水についての市民合意が不十分と思われる。したがって、現時点では、流域協議会は岡谷市の利水計画については説明を聞き置くことにしたい。

 より安全な水を、安定的に市民へ供給していくことは行政としての責務である。岡谷市では平成15年度、新たな地下水源の調査として、10箇所の電気探査を予定している。しかし、新たな水源とするには、その後も揚水試験や水質・水量調査などに綿密な調査が必要である。長野県は今後も安全で安定的な水供給をしてほしいという岡谷市の願いに対して、早期に代替案の提示をするよう取り組むこと。

 一方、将来の水需要を予測するには人口予測、政策的な部分、及び余裕分などの項目の検討が必要不可欠である。しかし、確実に予測することもまた困難であり、行政は余裕を持たせる反面、時代のすう勢に合わせ適宜見直しを行い、また、市民が納得できるよう努力すること。

 

W その他

 砥川流域協議会は、これまでの形だけになりがちな審議会などとは明らかに違い、「参加を希望する住民は誰もが会員として参 加でき、意見を述べ討論することができる。また旅費・日当等はいっさい支給されない」という、長野県が準備したルールを踏まえて、諸々の利害や価値観を持つ住民が、公開された会議で、徹底した論議によって一定の方向を見出していくという、新たな住民参加の試みであった。多忙な各自の日常生活の中で、会員は良く出席し会議の出席率は55%〜95%と高く、互いに建設的な発言に努め、住民と行政による共同作業の新しい形として、十分に評価出来るものであった。また、事務局にとっては、この会議を準備し、運営を辛抱強く支えることは、新たな経験であったと推察されるが、その活動についても高く評価したい。この会議はいつでも全ての住民に開かれている。今後もより多くの住民の参加を得て、砥川流域の諸問題を建設的に討論する場であって欲しいと願うものである。

 今後の活動として基本高水の再検証にも参加していきたいと考える。そのためには、引き続き住民と行政が情報を共有していくことが必要不可欠であり、行政はシステム確立を含め、住民との情報共有に取り組むこと。

 また現在の河川整備の計画制度では、基本高水の決定等重要な項目がある「河川整備基本方針」は地域住民の意見を殆ど反映することはなく、中央の社会資本整備審議会若しくは県の河川審議会で決定される。我々は実施を前提とした「河川整備計画」で意見を述べることが出来るだけである。今回の流域協議会も残念ながらその域を出ない。このように現在もなお治水安全度の判断は地域住民の手には無い。今後は河川整備基本方針を含めた全てのプロセスに参画し、最終的には地域住民が判断する制度を確立する事が重要である。

 

「まとめ」

 砥川の河川改修にあたっては、長野県はできる限り自然環境および親水性に配慮した護岸工法を取り入れることにより、関係住民の意見を聞きその同意を得て実施すること。

 砥川の流域対策については、現段階において遊水地の具体的構造や設置場所、実施期日等に不確定な要素が多いが、今後、県の流域対策原案を基にして、現地の状況に精通した住民・学識者を含めた様々な関係者と協議を重ねながら実施すること。

 以上のことを基本方針として、砥川流域協議会は長野県が示した下諏訪ダム中止に代わる代替案に対し一定の評価を下し、その早期実施を要望する。

 なお流域協議会は富士見橋と鷹野橋2橋の架け替えと砥川の河川改修をなによりもまず最優先としてこれを実施することを強く望むものである。  

 岡谷市の利水について、岡谷市と長野県は根本的な水需給の再検証を行い、見直した利水計画とその具体的対策案を砥川流域協議会に資料とともに提案すること。

 最後に、ダム建設が予定されていた地元では未だにダム問題は終わっていない。ダム建設に伴う土地売却等で新たな生活を予定していた人々は生活環境の変更を余儀なくされた。その後遺症は心の中に残っている。また長野県の言うがままに必死になってダム建設に協力してきた人々も、行政に対する不信感を払拭できずにいる。長野県はそれらのことを念頭に置き、うわべだけの言葉ではなく温情的な心配りをもって「脱ダム」後の様々な問題を解決する努力をするよう強く希望する。

以上