プロフィール

1937 年
長野県駒ヶ根市に生まれる。

1958 年 業績不振の伊那化学寒天株式会社を引き継ぎ、寒天の通年生産を目的に設立された伊那食品工業(株)に入社。
数々のイノベーションを起こし、寒天の新しい需要を開拓している。
1983 年
代表取締役社長に就任。

2002 年
「第 20 回 中堅・中小企業優秀経営者顕彰」(日刊工業新聞社主催)最優秀経営者賞を受賞。
日本寒天工業協同組合理事長も務める。

 活動内容

伊那食品工業は伝統食品である寒天を、家庭でも手軽に使える「かんてんぱぱ」として商品化したことで知られるが、独特の「いい会社」づくりは全国的にも注目を集め、会社の敷地内にレストランや山野草園などの皆が楽しめる「かんてんぱぱガーデン」をつくり、地域に開放するなど新しい取り組みを積極的に進めている。

「経営の原点は何か? 人を幸せにすることです」

―斜陽産業だった「寒天」を扱うことになったきっかけを教えてください。

「初めから、特にこだわったわけではなく、どんな仕事でもよかったんです。私は、17歳のとき、肺結核を患い、高校を中退し、3年近く寝たきりで闘病生活を送りました。その病室の窓の外を歩く人を見ては、青空の下を普通に歩けることだけがどんなに幸せなことか、そして働けることの素晴らしさを痛感していました。当時はものすごい就職難でしたので、どこでもいいから働かせいただければ有難いと思っておりました。そうして入社した木材会社の関連企業に現在の伊那食品工業の前身があり、当時としては珍しい粉末の寒天を生産していました。しかし、その会社は従業員十数名で、きちんとした機械もなく、生産技術も確立していなかったため、業績不振で債務超過に陥っておりました。そこで、この社長から会社の立て直しを命じられたのです。」

―木材会社から食品工業では、ずいぶんと業種が違いますが、不安や自分に合った仕事かどうか悩みはありませんでしたか?

「不安はありませんでした。むしろ、与えられた職業を天職と思い、とことん努力するべきではないか。努力も何もしないで、あれが良い、これが良いと職を変えるべきではないし、どんなことでも一生懸命努力をすれば道は開けると信念を持っていました。若い人はすぐ、自分にあった仕事をしたいと言いますが、若いうちには何が自分に一番適しているかということは案外わからないものです。年を重ねて、苦労をしながら、いろいろ経験をして自分の考えで仕事を進めることができるようになったとき、ようやくわかってくるのだと思います。」

―つまり、若いうちは「自分の適正」に拘泥しなくてもいいということですか?

「そうですね。人と職業との出会いは、ほとんどが運命的なもので、誰もが一番つきたい仕事に就いているわけではないと思います。適正だとか好き嫌いを考える前に、その仕事を自分に与えられたものとしてまず受け止め、その中で一生懸命やって自分自身でまずは実験してみることが大切です。ただ、一生懸命というのは、今の若い人がすぐ言う「自分なりに」ではなく、人に認められる一生懸命でなければ、「一生懸命やった」ということにはなりません。また、若いうちにはいろいろと経験した方が良いと思います。例えば、一年間ボランティアなどで災害復旧に係わるとか。そこで、身体を使い、汗をかき、汚れる仕事を体験することで、知恵が身につきます。これも、経験を通じて、自分の限界を知り、適正を知ることになると思います。一年間、学校の机の上で勉強するより、よっぽどいい。(笑)私は、高校中退ですが、今まで何不自由なくこなしてきました。つまり、中学までの学力があれば大丈夫ということです。義務教育というのは、社会に出て人間としてやっていくための教育ですから。しかし、残念ながら今の教育というのは中途半端になっている気がします。だから、社会に出ても中途半端になってしまうのです。全てに言える事ですが、何事でも基礎がしっかりしていないと、応用も利かないし、そこから生まれる知恵も出てこない。私は、「基礎」を「哲学」、更には「原点」といってもいいと思います。例えば、経営の原点とは何か?これは、人を幸せにすることです。決して、お金のためではありません。会社の利益や成長は、社員、地域の人々を幸せにするための手段に過ぎないのです。」

―伊那食品工業では、地域作りに力を入れているというお話も聞きましたが、やはりそれは「地域の人々を幸せにする」といった意味合いからですか?

 「そうですね。当社のかんてんぱぱガーデンは、単なる会社の所有物ではなく、「美しい」街づくりに貢献したいという思いから構想を練り、地域の方々にも親しんでいただいています。景観に配慮したり、地域の方々が「美しい」ということを素晴らしいことだと感じていただける活動が、地域の文化向上になると思います。私は、永続こそ会社の本来あるべき姿だと言い続けていますが、永続は社員や地域、環境、会社をとりまく全ての人を幸せにします。経済活動を通じて、雇用や納税やメセナ等の面で、地域社会に貢献することは、結果として確実な成長が約束されると思います。目先の利益にとらわれず、地球環境に配慮された節度ある、穏やかな成長が必要であると思います。」

―「穏やかな成長」というのは伊那食品工業さんの社是でもありますね。

 「社是というか。当たり前のことですよ。世間の流行廃りに惑わされず、時代の軸を見据えれば、穏やかに成長することになります。私はよく、時代の軸を、企業はもとより、人や社会が本来進むべき方向として「進歩軸」、その時々の流行廃りを「トレンド軸」と呼んで話をしますが、振り子のように揺り動く一時的なトレンドだけに振り回されたり、無理に合わせようとすると、急成長したり、急に失速することになります。大切なことは何か、本来あるべき姿を考え、一生懸命やること、そして自分のしていることを掘り下げることにより、穏やかにより高きへと進んでいくことができると思います。

時代の軸というのは、私が決めることではありませんから、私にできることは、時代の軸を見抜き、それにあった志を立てることです。