―先生が地域にかかわるようになったきっかけを教えてください。
僕はずっとここにいたわけではなくて、生まれは横浜で育ったのは逗子なんだよね。大学は東京のほうにいってて、そこでアジアの農村を支援する活動をしてたんです。その関係で卒業後は JICA (国際協力機構)の専門家になった。専門家といってもコンサルタント会社にいて、そこからかかわってたんだけどね。主に地域開発をやっていて、フィリピンの首都圏の大型開発にもかかわったりしてたね。
そういう仕事をしていてあるとき気が付いた。たとえば僕は農村にいって米の作り方を教えるけど、僕自身は米なんか作ったこともないわけ。これって詐欺だよね。日本の国際援助ってみんなそうかもしれないんだけど、大学で国際関係とか勉強した頭でっかちが、アジアの農村に行って教えて来るんだよ。でも発展途上国の農村にいけば、そこにいるのはここらへんのおじさんおばさんと変わらない。そういう人たちと一緒にやっていくには、その人たちがやっていることを自分自身がやっていないと何の説得力ももたないだよ。
それで会社をやめて、松本で村づくりの勉強をしようと思って来た。松本には玉井袈裟男さんという信州大学の先生(当時)がいてね。長野県では村づくりで有名な人で、その人に弟子入りをしたの。で、その時は2〜3年たったら、東京戻って NGO か ODA でまた働こうかなと思ってた。当時会社にいた仲間と一緒に NGO をつくって ODA を変えていくって考えていてね。ところが、玉井先生と一緒に村を歩いていて分かったんだけど、村の人ってさ本当は困ってないんだよね。困ってねぇえんだよ、みんな。だってさ、困って夜も寝られないかっていうとそうでもないでしょ。今、合併のことで困ってるっていってるけど、夜はみんなちゃんと寝てるんだよ。こまってねぇんだよ、そんなもん ( 笑 ) 。
つまり、人間って地域のためになんて困らないようにできてんだよ。農村に花嫁がこないとか、後継者が来ないとかいって、困ったような顔してるけど、それは困ってないと怒られるからだよ。だってみんなそんなことしても無駄だってわかってるもん。で、なにで困るかっていうと、自分のところの息子がどうするかっていうことでしょ。だから、村のためにとか地域のためにとかいうと逆に他人事になっちゃうっていうことに、僕は気がついたわけ。で、ある人がこういうこといったんだよね「白戸君。俺はなぁ、今まで地域のためなんて考えたこともねぇぞ。考えたのは自分が地域の中でどう生きていくかってことだけだ」ってね。で、僕はいろいろ考えたんだけど、アジアにいたころはアジアの農村のため、信州では信州の農村のため。自分はどこにもいないんだよね。要するに、おせっかいなんだよ。しかも 2,30 代で人の地域をどうするか考えるなんて、大変なおせっかいだよ。だって、その土地で長く生きてきた人が何を考えるかなんて、我々ではわかんないよ。そういう人たちから謙虚に学ぶっていうことが必要だし、それ以前に自分が生きなきゃいけない。自分が生きてみなきゃ、人がどう考えているかってことも分からないじゃない。そういうわけで、コンサルタントとかそういうのは一切辞めようと思った。それから松本大学予備校の教師を経て、大学の先生になったんだよ。
―先生の地域づくりのスタンスというのはどういうものなのでしょうか。
あるとき「大学の先生って嫌いです。言うだけ言っていなくなっちゃうから」っていわれたことがあってね。確かに、いなくなるなら最初から何にもいうなって思う。コンサルタント時代の経験から考えたんだけど、地域づくりっていうのが、その地域の人の子供や孫の代までかかわるものだとすれば、怖くてかかわれないなって思う。地域づくりをするなら、その地域で、大学の先生としてじゃなくて、一人の人としてかかわっていかないと。それが僕の原点だよね。だから、僕の場合は自分の生活、近所の人たちとの関係、大学の学生達とその地域の関係の 3 つの場がある。
―松本大学の学生は地域に出ていろいろ活躍してますね。新聞でよく読みます。
「社会活動」という授業でそういうことをやっててね。最初はボランティアの活動に単位を認めるのはどうかって議論もあったんだけど、僕は彼らが地域で何を学んできたかって言うことを評価しようじゃないかって主張したんだよ。で、この授業ができたんだけど、さて、学生が地域で学んできたことをどう評価しようかって考えて、「ずーく」っていう地域通貨をつくったんだよね。その「ずーく」にやったことを記録するようにした。そこに面白い仕掛けをしてね。地域でなにかやるときは「ずーく」の支出の差額をゼロにしてくるようにしたんだよ。学生が地域になにか与えるだけだったり、地域の側も与えられるだけじゃだめで、やっぱり双方向の交流がないとダメだと思って。すると学生も一生懸命考えるんだよ。地域から何をもらってこようかって。例えば老人ホームで作業をして、そこにいたおばあちゃんに春の七草について教えてもらってくるとかね ( 笑 ) 。 |