―なぜ現在のようなお店をはじめたのですか。
「日本は四季がはっきりしていて、オールシーズンに旬のものがあるんです。旬のものは薬膳料理で、昔の人はそのおかげで病気がすくなかったんじゃないでしょうか。自然というのはこんなに豊かで体にいい。その時々のものを食べることによって旬を感じてほしい。それがこのお店をやっている一番の趣旨です。今はスローフードということがいわれているけれど、私は英語でいうのではなくて、昔ながらの旬の食事をしようといっています。春は根のもの、夏は葉のもの、秋はきのこもありますけれど、木の実などの体に脂肪をたくわえるもの、冬は自然薯とかにんじんとか、体のあったまる根のものを使います。
今の若い人たちは四季がわからなくなってしまっています。それはおかしいのではないかと思います。この季節にはこんなものが採れるんだよとお教えしようと思っています。それに年配の人には体によくって昔ながらの味をお出ししてあげる。みなさん忘れてらっしゃるんですよ。そういうものを思い出していただこうと思っています。時期っていうのはこんなに素晴らしいっていうことを伝えることができるお店が一軒ぐらいあってもいいでしょう。また、最近では仕事場や家に閉じこもったりで、なかなか外にでて太陽を浴びる機会もないでしょうから、なるべく山などに一緒にお連れして、持ち帰ったりその場で調理したりして食べてもらおうと考えています。」
―お店をやる上で大切にされてることはなんですか。
「遊び心を大切にしています。まず旬の遊び。これは今言ったように四季折々の食材をお出しするということです。それから食遊び。つくる遊びと食べる遊びです。器遊び。うちではいろいろな器を用意しているんですけど、同じ食材でも器の盛り方によって、食べる感じも全然違います。あと言葉遊び。これは食事中の世間話や家族の団欒みたいなもの。それが大事だって最近よく言ってるんですよ。
あとやっぱり手づくりということを大切にしています。オーブンとか電子レンジはなるべく使わないようにします。素材がもっている味をそのまま活かす料理で、手の込んだことはしてませんし。なんでも一つの鍋やフライパンでできてしまうんですよ。なるべくアクのないものから調理すれば、味にも影響はありませんしね。」
―お料理や食材に関する知識はどこで習得されたのですか。
「私は山育ちだけれど、食材に関しては本で覚えたことも多いですね。お料理を覚えたのは、呉服屋さんに勤めていた時です。女中さんみたいにお店の中のことを一切したんです、 5 年間。その時の経験があって今の自分があるんだと思います。それから、結婚して主人の床屋で働いていたんですけど、月曜の休みのたびに野山に入るように努力したんです。当時の床屋さんというのは何か暗くて不健康なイメージがあって、それで母が心配したものですから(笑)。その休みのたびにとってきた山菜なんかを、床屋のお客さんにお茶と一緒にお出ししていたんです。もともとは健康のためにやっていたことなんだけど、 47 歳のときにカウンターだけの小さい店を開業させていただきました。」
―普通の山菜料理や郷土料理というわけではないんですよね。
「ええ、そういうわけではないです。とにかく旬を大事にして料理をするという。うちではこういうことをいっているんです。『春になるとヤギになる。夏になると蝶々になる』。春にヤギが食べるもの、夏に蝶々がとまるものというのは全部食べることができるんですよ。だから、花ちらしや花サラダっていうツツジなんかのお花をあしらったお料理もお出しします。もっと変わりどころでは、六月ごろには鯰をお出しすることもありますし、夏にはスズメバチなんかも食べていただけます。私は本当に自然が好きなんです。野に行くと山野草ばかりじゃなくて、昆虫もいます。鳥もいます。地球というのはすごいなと感じます。本当に自然は豊かです。うちでは今日お客さんになにをお出ししようとまよったことは一度もないんですよ」
―しかし現代人にとっては、旬の料理をたべるというのは難しいと思うんですが。
「全部が全部とはいかないだろうから、一品や二品でも多く自然のものを食べるように努力してください。特に若い人たちには本物を食べていただきたいですね。着るものより食のほうが大事だと思います。山野草というのはどこにでもありますので、休日にちょっとでかけてとってこれますしね。お料理 110 番もやってますので、こういう草があるけどどう食べればいいのかって電話してくださればお答えしますよ。もちろんお店にも来てください。癒しの店ですので、心とか体がつかれたときに食をもってゆったりとした気持ちになっていただこうと思ってます。単身赴任の方だったら家庭のものを食べたいってときに寄ってもらうとかして(笑)。」
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