―現在のような創作活動をはじめたきっかけを教えてください。
「安曇野にうつり住んでくる前は、私は大学の環境科学研究所の主任研究員、妻は小学校の教員をやっていました。そういうなかで、自然や人―人も自然のひとつですからね―を見つめていました。そのころは油絵とか水彩画とか版画なんかをつくっていました。あと、セラミックスをつかった粘土細工みたいなアクセサリーも作ってましたね。私の専門が化学だったもので、材料を自分で工夫して考えて、素材から自分でつくったり。それで東京のほうで個展を開いたりして作家活動をしてきたんです。そのころも、仕事でコンピューターを使うことはあったんだけど、やっぱり冷たいイメージがあって、自分の作品とは異質のものだという気がしてました。コンピューターにも CG にも興味はあったけれども、それで製作しようとは思いませんでしたね。
10 年前に都会から安曇野に移り住んだときに、突然、この安曇野の自然をコンピューターで表現できないかという、思いつきというか欲求が湧いてきたんですよ。それをやるにはどうしたらいいかと、漠然と考えたときに、今までの創作活動の経験から、手漉きの和紙を使えば、たとえば落ち葉なんかにしっくりくるんじゃないかなって思いつきました。そこで、二つのシリーズを考えたんですよ。ひとつは、一枚の落ち葉を、コンピューターに取り込んで、一羽のふくろうの絵に描き直していく。それを和紙にプリントアウトして、新しい版画のような作品をつくる。もうひとつは、セラミックスで粘土人形みたいなものを自分でつくる。それを取り込んで、 CG にする。自分でつくった人形も、指でつくりますからね。指紋やら指の丸みなんかがあるわけです。だから最初から CG にするんじゃなくて、手づくりしたものを CG するわけです。自然が手づくりした落ち葉を CG にする、自分が手づくりしたものを CG にするっていうね。そういう二つのやり方を考え付きました。 CG というと冷たいイメージがありますけど、そうではなくて、なるべく自然の感じ、落ち葉のざらっとした感触や温かみを伝えていくようなものです。これが『ビンサンチメソッド』です。」
― NPO 法人 KAEDE を設立した経緯を聞かせてください。
「ある日製作してて、ふと『これなら子供達にもできるんじゃないかな』と思ったんです。たまたま、アトリエのお客さんの一人に明南小学校(明科町)の先生がいて、それがきっかけでその小学校の総合的な学習の時間を指導することになりました。そしたらもう、大成功で。子供達はフィーバーしちゃったんです。それで、完成した作品を『こども CG 美術展』という形で発表しました。そこに穂高町の町長さんもきてくれて、当時やってた『コンテンツフォーラム穂高』にも、それらの作品を出品することができたんです。で、そこで知り合った青年が、たまたまコンピューターを使った NPO 的な活動をしたがってた。でも彼は具体的にどういうことをやるのかは、まだ模索段階だったんです。私のほうは小学生に教えて反響がよかったから、『びんさんちメソッド』を社会に広めたいと思ってました。そこで、すぐ意気投合して、それから一ヶ月で NPO 法人を申請しましたね。」
―「ビンサンチメソッド」を子供たちに教えることにはどのような意味があるんですか。
「今のコンピューターというのは、非常に優れていて人間の知的な部分、イメージの部分、想像力の部分までもコンピューターがサポートしてくれます。だから簡単な画像処理のソフトを使うだけで、小学生とかでも自分の中にあるものを簡単に表現できるわけですね。
子供達の心の中には、大人じゃとても想像できないような大胆なイメージや思いが詰まってます。それがたとえば美しい自然に出会ったときに弾けるようにして出てくるんですよ。ただ、本人にそれを表現する力はないし、親や先生も心の中を覗くことができないからわからない。でもコンピューターを使うことによって、それを誰もが見れるような形に表現できるわけですよ。ある子供の夢を親や先生達も共有できるようになるんです。普通ならばデッサンなどをして、経験を積んで技を磨いてからじゃないとできないようなことが、半日ぐらいでできます。それが『びんさんちメソッド』の醍醐味ですね。
あと、やっぱり子供は非常に純粋ですよね。目なんかみてみても、子供の目は澄んでます。今、いろんな人たちが癒しを求めています。そういう大人たちが何に癒されるのかって考えると、安曇野のような自然と、子供の純粋な心なんじゃないかなって思います。もちろん年齢的な子供だけじゃなくて子供の心を持った何か、ということですけど。そういう子供の純粋な部分、それはしまっておけば、日常や世間の掟みたいな埃がたまっていって、やがては本人もきづかないまま忘れ去ってしまうようなものです。その純粋な部分を純粋な状態のまま表現することができるのができるんです。
こんなことがありました。金沢の小児科の先生が、開業する友人のために、診療所に飾るプレゼントを探してたんですよ。それで私達の『こども CG 美術展』の作品を見て「これだ!」って。その作品は額の代金も含めて 2 万 5 千円で売れました。これにはびっくりしましたね。小学生のつくった作品がこんな値段で商品として売れる。これはやはりすごいことだと思います。」
―大人が子供のように感じて作品をつくるのは難しそうですね。
「そんなことはないと思いますよ。たとえば私は出会いの瞬間っていうのを大切にしています。自然と出会う瞬間、新しい人と出会う瞬間。その時わたしは相手の地位や肩書きなんて何にもしりませんから、その人自身を新鮮にとらえることが出来るんですね。子供の感覚というのはそういうものでしょう。毎日毎日新しい出会いをする。それを忘れないことだと思います。」 |