ー北畑先生の 音楽療法の治療とはどんなことをされるのですか。
「音楽療法の治療法は患者さんの数だけ方法があります。なぜならその人が歩んできた道が違うから。 理学療法士さんは骨折しちゃった人とか怪我をした人の体を動かしてリハビリしますよね。私たちは心のリハビリなんです。体が不自由になっちゃって落ち込んでいる人にがんばってリハビリしなさいってのはムリですよね。私の病院の仕事は、リハビリ室に送るまでに心を揺すって、『いっしょにがんばってみない?』っていうような方向に患者さんを向けるように患者さんに寄り添っていくことなんです。患者さんが懐メロを聞きたいといえばテープやCDをつかうこともあるし、精神科の患者さんが自分達の作業所の歌を作りたいっていってきたものに曲をつけて差し上げることもあるし、障害をもつ子供に即興的に作ることもある。体の動きやリズムにあわせてね。いっしょに歌ったり、指をすこし動かしたり、足を動かしたりかな。私は今年度は15箇所契約して施設に定期的にうかがっていろんな患者さんにセラピーしてるんだけど、15箇所のうちピアノが使えるのは 1 箇所だけなんだよね。他のところはキーボードがあるところもあるし、ないところもある。そういう時私の場合は全部声。高齢者さんのばあいは小さなアコーディオンを使ったりします。」
ー効果はどんなものなのですか。
「好きな音楽を聴くと、体中の毛細血管が開く。そして、血の巡りがよくなり皮膚温の上昇につながっていく。そして筋肉の緊張もほぐれていく。結果リラックスする状態になりますよね。血の巡りがよくなると、例えば痴呆の患者さんなんか、いい血液と酸素がめぐっていけば活性化されて痴呆が進んでも、一時的にくい止められる、遅らすという効果も現れます。音楽は聴くだけでもいいんです。音楽を聴くのはいいことをしているんだ、音楽によって力をもらっているんだって考え方をしてください。音楽を聴くということはひとつからだにいいことしてるのよって。あるお医者さんは、患者さんたちは病と闘っていくのに泣くことも必要、病に怒ることも必要、時には笑うことも必要。たぶんそういうことを自然にさせてくれるのが音楽なんだろうなって評価してくださったんです。リハビリをがんばっている患者さんがすごい勢いで泣かれることもあります。たまってた思いが音楽によってぱあんとはじけて。我慢してたのが表れたんだなって。音楽って泣かせてくれる力があるんだなって。その後は泣かしっぱなしではいけないので、そこで音楽療法士が寄り添います。子育て支援とか、対象者さんによっては『自分の応援歌はある?』って尋ねます。お母さん自身に音楽の力を感じてもらって、リフレッシュしてもらう。『応援歌っていうのは自分を奮い立たせるためだけじゃないんだよ。ほんとにがんばったねってて思わせてもらえるのも応援歌だし、リラックスさせてくれるのも応援歌なんだよ』って若いお母さん達に言うんです。」
ーどこの病院でも取り入れられているのですか。
「長野県の中で音楽療法士がお給料をもらってセラピーをしているってのはまだあんまりないかもしれません。長野県の音楽療法士は20人くらい。たぶんその中で、病院で現場を持っている人って5人もいないんじゃあないかな。しかも、そのなかの何人かはボランティアなんです。認められてない。現在、日本のお医者さんの 99 %が音楽療法医学的治療技法にも関わらず知らないって言われてます。それが今の日本の現状なんです。音楽療法士はお医者さんに依頼されて動くのだけれども、 99 %のお医者さんが知らないってとこは使われませんよね。最近ではお医者さんや看護士さんが自分で勉強して、医師の免許+音楽療法師の資格を持つ方も増えてきましたけど。カナダの看護婦さんは両方あたりまえに持っているんですよ。音楽療法士を法制化するのには 10 年かかるだろうって。やっぱり法の問題ですよね。でも音楽療法士の教育は始まってるんです。音楽大学の中に音楽療法士学科とかは増えてきた。ただすぐに卒業したからなれるわけではないんです。音楽療法士補の試験がある。それから現場に出てセラピストとして 3 年以上働いて、キャリアを積んで、実績を積んで初めて資格が取れる。私の場合は 9 年半兵庫の精神科の病院で音楽療法士をやる機会に恵まれて、そこでお医者さんと看護士さんのもとでやった実績を認めてもらえ、この資格を取ることができました。この仕事は机の上の勉強だけではできません。多くの患者さんと接して、患者さんから自分が感じて自分が何をしてさしあげることができるか、自分で覚えていくしかないんです。音楽療法士は感性がとても必要です。人の痛みは絶対わからないって言う人がいるけど、どこまでその痛みに寄り添うことができるか、共感できるかだと思うんです。ほんとに医学の現場でなされてないのが残念だなってのがね、ある重症の患者さんに茶摘の歌を歌いかけたら、無声音なんだけど 2,3 ヶ所くらいはっきり聞き取れる歌詞が戻ってきたの。そのかたはその時点で脳の半分を損傷していたんだけど、私の歌に合わせてそのかたは、口を動かして歌詞をおっしゃったわけです。つまりその方は聞いて相手に伝えるって能力は残っていたということですよね。その方の苦しい胸の動きに合わせて歌いかけるの。あなたひとりじゃあないんだよ。私いっしょにいるよってメッセージで歌いかけていくのね。そのあとも毎日 10 分くらいの短いセッションを続けたら、ある日集中治療室を出れるようになったのよ。お医者さんは考えられないっていって、これが音楽の力なのかなって。そのひとは車椅子で一日何分かすごすってことができるようになったんです。今日明日の命だった方がね。それは音楽の力もあったかもしれなし、ほんとにそれは私とその方との絆っていっていいかわかんなけれど、それがあったから私とその時間を過ごすことによってなにかを感じてくれたのかなあって思うんです。最後まで聴力ってのはのこるから、音楽で送って差し上げるってのはとっても大事なことだと思うんです。」 |